土屋嘉男著「クロサワさーん!」を読みました.

 学内教職員の有志で連載している書評ブログに投稿したものを再掲します.この本は,数年前にラジオ番組「武田鉄矢の今朝の三枚おろし」の中で紹介されていたときに購入したものですが,熊本出張の際に読み直してみました.また『七人の侍』を観たくなってきました…

 俳優・土屋嘉男氏は,26歳のときにオーディションで映画監督・黒澤明氏に見出され,名作『七人の侍』で「利吉」役に抜擢された.それ以来, 『赤ひげ』,『椿三十郎』,『隠し砦の三悪人』,『天国と地獄』など,数多くの黒澤作品に出演している.この本は,そんな土屋氏が45年間にわたる黒澤監 督との交流を綴ったものである.
 本書は映画『七人の侍』の撮影時の出来事を中心に構成されている.野武士の山塞を襲撃する場面の撮影では燃えさかるセットの中で熱風に煽られ て気を失い,土屋氏の顔が火ぶくれになってしまったことや,野武士と侍達の最後の大決戦の場面で大雪の降ったオープンセットに何台もの消防ポンプで水をま いて泥沼のようにして撮影を行い,ずっと泥水につかっていた黒澤監督の足が凍傷になってしまったことなど,すさまじい当時の撮影の様子が紹介されている.
 撮影の邪魔になるからと電柱を移動させたり,セットの調度品に本物の古美術品を使ったりすることから,「完全主義者」と評されていた黒澤監督であるが,土屋氏は,その呼称は短絡的だと,次のように異議を唱えている.
誰だって物を作るときは完全主義者であるはずである。出来上がっていろいろ悔やみも諦めも残ると思う。ただ、黒澤さんは自分の夢に少しでも近づ けたいと闘うのである。途中で投げ出さないのだ。それには会社とも喧嘩の出来る人でなければならない。それこそが、映画を飯より好きであった人の才能でも ある、と私は思った。
  「途中で投げ出さないこと」は才能なのだという土屋氏の言葉に深い共感を覚えた.
IMG_2889