タチアナ・ド・ロネ著「サラの鍵」

現在,学内の有志による書評ブログの準備が進められています.学内限定なので,そこに寄稿したものを再掲します.

「サラの鍵」タチアナ・ド・ロネ (新潮社)
 ある日映画館でこの小説を原作とした映画の予告編を観た.とても良くできたトレーラーで,その続きが気になっていたのだが,肝心の本編の方は見逃してしまった.その代わりに,ということで購入したのがこの本だ.
 この作品はフィクションだが,作中に描かれたユダヤ人大量検挙事件は実際に起こったものである.1942年7月16日のナチス占領下のパリで,フランス警察によって13000人以上のユダヤ人が捕らえられ,冬季自転車競技場(ヴェロドローム・ディヴェール,略称ヴェルディヴ)に収監された.彼らはトイレも使えず,満足な食事も与えられないまま,6日間この競技場の中に閉じ込められ,その後ほぼ全員がアウシュヴィッツに送られたそうだ.
 この作品を読むまで私はこの事件のことを全く知らなかったが,著者を含め,多くのフランス人もまた,1995年7月16日にシラク仏大統領(当時)が演説の中でこの事実をはっきりと認め,国家として正式に謝罪するまでは,よく知らなかったようである.フランス人による忌まわしい事件はタブー視され,歴史の闇に葬られようとしていたのだ.
 さて,小説「サラの鍵」だが,文字通り心を鷲づかみにされてしまった.パリに暮らす女性記者と60年前に強制的に連行された少女とが,ふとしたきっかけで繋がり,二つのストーリーが複雑に絡み合って展開していく.
 途中読み進めることがつらい場面もあるかもしれない.それでも,これからの時代を生きていく学生の皆さんには,目を逸らさずに読んでみて欲しい.写真 Jan 14, 1 46 00 PM