研究内容のご紹介

このページでは、本研究室でこれまで取り組んできた研究課題をご紹介します。(随時、追加・更新していく予定です。)

大気圏再突入時の空力加熱

宇宙空間での任務を終えたほとんどの宇宙機は最終的に惑星大気に突入あるいは再突入することになりますが、その速度は8〜12 km/秒にも達し、音速の20〜35倍程度となります。このような超音速気流中におかれた宇宙機の前方には強い衝撃波が発生して気流は急激に圧縮され、温度が上昇します(衝撃波直後で2~3万度)。このため、このような高温気流から宇宙機には日常的には経験されないような膨大な量のエネルギーが伝わります(空気力学的加熱、略して空力加熱と呼ばれています)。2010年6月に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」が大気圏に再突入し、燃え尽きる映像が公開されていますが、その様子からも再突入体が如何に厳しい熱環境にさらされているかがわかります。このような空力加熱から機体や乗員を守る熱防御システムは宇宙輸送システムを設計する上で最も重要な要素の一つであり、将来の宇宙活動を支える基盤技術として認識されているところです。

はやぶさの大気圏再突入時の映像 (JAXA)
はやぶさの大気圏再突入時の映像 (JAXA)

空力加熱は基本的には気流の速度と温度によって決定されるので、加熱量を精度良く予測するためには、両者を正確に把握する必要があります。日常経験する気流の速度や温度は流体力学の知識に基づき、コンピュータを用いた数値シミュレーションによってある程度予測することができますが、上述したような高温環境下では気体を構成する分子の化学反応(例えば、N2 → N + N)等によって気体の性質が変化し、数値シミュレーションは極めて難しくなります。特に、大気密度が小さい高々度では反応が進行する速度が緩やかとなり、気流速度に比べて無視できない程度(このような流れは非平衡流れと呼ばれています)となるので、気流と化学反応を同時に解析しなければなりません。われわれの研究室では、このような非平衡流の数値シミュレーションを行い、流れと反応の連成現象について調べています。

OREX周りの極超音速非平衡流れの数値シミュレーション結果
OREX周りの極超音速非平衡流れの数値シミュレーション結果

衝撃波により誘起される物体の運動

衝撃波は、爆発や放電など、急激にエネルギーが開放される際にも発生します。爆発などによって発生した衝撃波は、その背後に高速気流を伴って周囲に伝播し、構造物を破壊したり、周囲の物体を舞い上げたりします。爆発事故の危険度評価のためには、このような爆発飛散物の軌道を予測する必要があります。

衝撃波と衝突した物体は衝撃波およびその背後の気流から力を受けて運動しますが、物体が運動すればその周りの流れは変化し、物体に働く力も変化します。これによって物体の運動が変化することになり、物体と周囲の流体の運動は強く結びついたものとなります。そのため、両者の相互作用を正しく考慮しなければ軌道の予測はできません。本研究では、衝撃波によって誘起される物体の運動を予測するためのソフトウェアを開発し、衝撃波管を用いた実験結果と比較することでその有効性を検証しています。



衝撃波と粉粒体の干渉

衝撃荷重を受けた粉粒体内部の応力分布(離散要素法によるシミュレーション結果)
衝撃荷重を受けた粉粒体内部の応力分布(離散要素法によるシミュレーション結果)

粉粒体は、多数の固体粒子の集まりで、粒子間に存在する隙間や接触した粒子間に働く摩擦力などにより、通常の固体には備わっていない様々な性質をもっています。特に,衝撃や振動を吸収する性質は、身近なところでよく利用されています(線路上のバラスや走幅跳の着地点など)。この性質は、爆発などによって生じた衝撃波を減衰させるためにも利用されていますが、ある条件下で衝撃を増大させることがあることが報告されています。本研究では、衝撃波管を用いた実験により粉粒体と衝撃波との干渉現象を様々な観点から調べています。また、コンピュータを用いて粉粒体内の全ての粒子の運動方程式を解くことで、衝撃荷重を受けた粉粒体内部の応力分布を調べています。

機能性発光色素を用いた圧力・温度計測技術

感圧塗料は、ポルフィリン錯体や遷移金属錯体など物質が放射するリン光の強度が周囲の圧力に応じて変化することを利用して、固体壁上の圧力分布を計測するために開発された機能性塗料です。 一方、感温塗料は、色素の発光強度の温度依存性を利用したものです。これらの塗料を模型の表面に塗布し、放射されるリン光の強度分布をCCDカメラで計測すれば、模型表面の圧力あるいは温度分布を一度に取得することができます。また、従来センサが設置できなかったような微小な領域での計測も可能となります。

感圧塗料を用いて計測した超音速ノズル内部の圧力分布の時間変化
感圧塗料を用いて計測した超音速ノズル内部の圧力分布の時間変化

開発当初の感圧塗料は応答性が悪く、高速現象には適用できませんでしたが、われわれは多孔質物質を使って発光色素を壁面に固定することで、その応答性を格段に向上させることができることを示し、超音速ノズルの始動過程における非定常圧力分布計測に成功しました。

解適合格子を用いた流れの数値シミュレーション技術

衝撃波は超音速流れに現れ、その前後で物理量は急激に変化します。数値シミュレーションによって衝撃波を精度良く捉えるためには、その近傍で計算格子(流体の数値シミュレーションでは、流れ場を小さな格子で分割し、その格子に対して物理法則を適用する方法がよくとられる)のサイズを十分小さくしなければなりません。衝撃波の発生位置が予測できない場合(特に非定常問題の場合)、計算領域全体で格子を小さくしなければならなくなりますが、必然的にメモリ量や計算時間は増加してしまいます。この問題を解決するため、衝撃波の近傍でのみ計算格子のサイズを小さくする方法(解適合格子法)が提案されています。この解適合格子法では、衝撃波の位置を何らかの方法で検知し、その近傍に格子点を追加するとともに、衝撃波が移動してしまった後の領域の格子点を除くことで、格子点数および配置の最適化を図っています。解適合格子法は、衝撃波を伴う流れの数値シミュレーションに対して理想的な方法ですが、課題もまだ多く残されています。本研究では、(i) 定常解への収束性に及ぼす計算格子の質の影響、(ii) 効率的な格子細分化法について検討しています。

解適合非構造格子の例
解適合非構造格子の例
解適合格子法による計算結果例(等密度線図)
解適合格子法による計算結果例(等密度線図)